
働く人がよりいきいきと暮らしていくために、「休息」を研究し、デザインする。
休息デザイン研究所は、そんな理念のもと、さまざまな職業・世代の人々が自分自身の休み方を見つめ直すための場づくりに取り組んでいます。
2024年秋、淡路島・洲本にある複合施設「BRICK LAB」で開催されたプログラム『SWITCH』に参加し、私たちは「休息Bar」と「休息に向き合うワークショップ」という2つのプログラムを実施しました。
このレポートでは、その2日間を通して見えてきた「休息」の可能性をお伝えします。

初日の夕方、やわらかな光が差し込む空間に「休息Bar」がオープンしました。
一日の終わりに立ち寄り、仕事の話をしなくてもいい。目的をもたなくてもいい。この日にあわせてブレンドされたオリジナルのコーヒーやハーブティーを片手に、心と身体をほどいていくための時間です。

テーブルの上には、「あなたにとっての休息とは?」という問いが書かれたカードが並びます。参加者はそれを手に取りながら、互いに言葉を交わし、時に黙って考え、また笑い合う。肩書きや立場を離れた素の自分として過ごす時間が、静かに流れていきました。
「誰かと比べず、ただ自分のペースで過ごせた」「話しているうちに、心がゆるんだ気がする」
そんな感想が多く聞かれたこの“バー”は、単なる癒しの空間ではなく、「自分を取り戻す実験場」でもありました。休むことを“生産性のため”ではなく、“自分とつながり直す行為”として捉え直す。その小さな体験が、翌日へのエネルギーを生み出していきます。
翌日は、より深く休息に向き合うワークショップを開催しました。

テーマは「自分にとってのよい休息とは何か?」。
仕事や家庭、地域での役割など、日々の忙しさのなかで後回しにしがちな“自分を整える時間”を、あらためて見つめ直していきます。
最初の対話のテーマは、「最近、休めていますか?」。お互いの「休めない理由」を語り合うことで、場に安心感が生まれ、少しずつ表情がやわらいでいきました。「ついスマホを見てしまう」「休日も家事で終わってしまう」「“何かしていないと落ち着かない”」
参加者の言葉のひとつひとつに、現代の“休めなさ”がにじみます。

後半は、自分の心と身体がほっとする瞬間を書き出し、「小さな休息のデザイン」を考えるワークへ。「朝の光の中で深呼吸する」「お気に入りのマグでお茶を飲む」「寝る前に照明を落とす」など、日常の中に埋もれていた“ちいさな休み”が、次々と見つかっていきました。
誰かに教えられるのではなく、自分自身で「心地よさの地図」を描いていく。このプロセスこそが、休息を“他人事”から“自分ごと”へと変えていく鍵になります。
プログラムを通して印象的だったのは、初対面の人同士がすぐに打ち解け、笑顔があふれていたことです。
「休みたい」という気持ちは、どんな働き方や立場の人にも共通するテーマ。だからこそ、休息を語り合う場には、世代や職業を超えて共感が生まれます。
「自分だけが疲れているわけではないと気づいた」「人の話を聞いて、自分にもできる休み方があると感じた」といった感想が多く寄せられました。
休息とは、孤独な行為ではなく、人と人とをつなぐコミュニケーションの入り口でもある。そのことを、参加者一人ひとりの表情が教えてくれました。
「休息」という言葉は、一見“止まること”のように見えます。しかし、私たちが見つめているのは、“よりよく進むために立ち止まる”という意味での休息です。
休むことは、生き方を整えるためのリセットであり、次の一歩を生み出すための準備でもあります。
休息デザイン研究所では、こうした考えを社会の中に広げるために、企業や自治体へのプログラム提供、ワークショップ設計、ワーケーション・リトリートの企画監修などを行っています。

一人ひとりが自分のペースで働き、生きるための“休息文化”を、職場や地域の中に根づかせていくこと。それが私たちのめざす未来です。
私たちは、休むことを“弱さ”や“逃げ”と結びつけがちです。けれども本当の休息とは、自分の状態に気づき、余白の時間を自ら持つこと。そして、自分らしいリズムを取り戻すことにほかなりません。

休息デザイン研究所は、これからも人と社会のあいだに「やすらぎの余白」を生み出し、働く人がよりいきいきと暮らしていける社会の実現をめざして活動を続けていきます。